世界から飢えや貧困がなくならないのはなぜか?
不況とか景気が悪いとか言いながら、食べるものは食べ、遊ぶ時には遊ぶ日本人。
しかし世界には、慢性的に飢えに苦しむ人たちがたくさんいます。
なぜ、世界に飢えや貧困に苦しむ人が存在するのか?
それをわかりやすく解説した本、 「世界の半分が飢えるのはなぜ?」を参考に、飢えや貧困がなくならない原因・理由を考えます。
世界の半分が飢えているという事実
「世界の半分が飢えるのはなぜ?」を書いたのは、スイス人の社会学者ジャン・ジグレール氏。
30年以上にわたって「南」の飢えの問題を研究し、豊かな先進国の責任を問い続けている人です。
あなたは、世界で飢えている人がどのくらいいるかご存知ですか?
この本にはFAO(国連食糧農業機関)のデータが紹介されていました。
FAOとは、農業支援を通じて、飢餓や栄養失調をなくす活動をしている国連機関のこと。
本にあった1999年の同機関の統計によると、 死と直面している「深刻な飢餓状態」にあるとされる人びとは、 3000万人と報告されています。
そのほか「慢性的な栄養不良」と見られる人が8億2800万人います。
このなかには栄養不良に起因する視覚障害、くる病、知能発達の遅れなど、 さまざまな心身の障害を背負わされている人がたくさんいます。
本の中ではFAOの統計では「8億2800万人が慢性的栄養不良」となっていましたが、 2009年8月のFAOのニュースレターでは、世界の飢餓人口は2009年に11%増加し、 史上最高の10億2,000万人に達すると予測されるとありました。
【参考】
難民キャンプの光景
ジグレール氏は、飢餓が広がる現場も訪問し、その悲惨さを自身の目で見ています。
特にエチオピアの難民キャンプの話は非常に衝撃を受けます。
そこでは、命の選別が行われていたというのです。
エチオピアの人口の85%が住むというエチオピア高地は、1999年までの5年間、 ほとんど雨が降っていません。
土はすっかり乾ききって、農業はできない。
家畜も死に絶えます。
何十万人という農民たちが難民になって、救援センターがある町を目指して数百キロもの距離を歩きます。
途中で力尽きて死んでしまう人も多いわけですが、難民キャンプにたどりついたとしても、 助かる保障はありません。
彼らを助けるのに必要な医薬品や食料が不足しているからです。
4000管は何ですか
そのため医師や看護師は、難民たちを選別せざるをえなくなります。
助かる見込みのある人と、そうでない人を。
助かる見込みのある人には、 手首にプラスチックのバンドが巻きつけられて、一日一回食事が与えられます。
しかし、あまりにも衰弱が激しい人は、助からないと判断され、バンドをもらうことができません。
こうした場所に来る人たち、とりわけ子供たちの多くは、特別な治療を必要とします。
長い期間まともに食べることができずに栄養不良となっている人に、 いきなりパンのようなものを食べさせると、死んでしまうことがあります。
消化器系が衰えてしまっているからです。
こうした人たちには、特別な治療が必要なのです。
静脈から特別な栄養を補給したり、免疫血清の注射をしたりといった治療が必要になります。
しかも治療は患者一人ひとりに合わせて変えなければならない。
子供の場合は、砂糖、油脂、ビタミン、 ミネラルが添加された粉ミルクを水で溶かしたものが与えられる。
しかし、砂糖は衰弱した体に負担になるし、水も問題で、細菌が繁殖していることがあります。
そして、こうした治療を行うには、3週間から4週間もかかります。
適切な診断と治療が不可欠なので、専門家が必要ですが、その数が足りません。
経済的飢餓と構造的飢餓
こうした飢餓状態は何が原因で起こるのでしょうか。
本には「飢餓」には2種類あるということが書かれています。
経済的飢餓と構造的飢餓の2種類です。
実際に今飢えに苦しんでいる人にとっては、自分がどちらに分類されようと、 知ったことではないと思いますが、これは飢餓に苦しんでいる人たちを指すのではなく、 現象としての飢餓を指す専門用語のようです。
FAO(国際食糧農業機関)でも使っている言葉です。
経済的飢餓というのは、「突発的で急激な一過性の経済危機によって発生する飢餓」のこと。
これに対し構造的飢餓は、「長期にわたって食糧供給が滞っている場合」に使われる言葉。
その国全体の経済発展の遅れや低いインフラ、貧困といった問題で起きる飢餓です。
構造的飢餓は、外部要因ではなく、その国全体を支配している社会構造が引き起こす飢餓のことを指します。
特権の人々はなる
経済的飢餓の例としては、 先ほど例に出した干ばつが原因で起こったエチオピアの飢餓のようなものがあります。
構造的飢餓は、日本に近いところでは、北朝鮮で起こっているような飢餓です。
国民のことなど全く考えない腐敗した政権、 農業に適した広い土地がありながらいい加減な農業政策を行い、食糧を増産するどころか、 田畑を荒廃させている。
こうした形で起こるのが、構造的飢餓です。
援助をすれば何とかなるわけではなく、社会構造に問題があるところから、 こちらの飢餓の方がより深刻だと言えるでしょう。
本の中では、アフリカ諸国の例が主に紹介されていました。
アフリカは役人や政府の腐敗が激しいところで、国民が貧困や飢えに苦しんでいるにもかかわらず、 自分たちは豪邸に住み、高級車を乗り回す。
国によっては、国家予算の7割を役人や政治家の給料にしてしまっているところもある。
当然、そんな自分たちの利益だけを追い求め、国民のことを省みない者たちが 権力を握る国では、まともな農業政策、経済政策は行われません。
あるいは、国が国としての体をなしておらず、武装勢力が利権を求めて政府軍と内戦を行ったり、 村を襲ったりすることもあり、そんな武装勢力によって、 援助物資を積んだ輸送機が撃墜されるといった事件も起こります。
飛行機でしか行けないようなところに避難民がいるにも関わらず、こんなことが起きると、 国際機関も援助を続けることができなくなります。
一つ具体的な例をあげると、セネガルではピーナッツの栽培が盛んです。
というかピーナッツ栽培にだけ極端に偏った農業が行われています。
そのほとんどが、ヨーロッパへの輸出用です。
農民たちが作ったピーナッツは、政府が買い上げて輸出しているわけですが、 その買い取り価格は不当に安い。
その一方で、政府内部には腐敗した役人がぞろぞろいて、 農民からの買値と輸出価格との間の差額で莫大な利益を得て、豪華な生活をしています。
ピーナッツばかり作っているので、食糧はほとんど輸入をしなければなりません。
主食の米はタイやカンボジアから輸入され、その量は40万トンにのぼります。
穀物全体で見ると、国家予算の17.4パーセントというお金が、穀物の輸入のために費やされています。
フロリダ州の破産の費用は何ですか
ピーナッツしか作っていないと、食糧は輸入しないといけないわけですが、 輸入業者は食糧の輸入に際し、政府の許可が必要で、許可料を業者から徴収します。
それが政治家の利権になっていて、そこから巨万の富を吸い上げている。
セネガルは、十分に食糧生産が可能な国であるにも関わらず、 政府が植民地以来の農業政策をやめようとしないため、農民たちは困窮し、 食糧不足に歯止めがかけられません。
飢餓構造のほかにもある原因
飢餓構造のほかにも、金融を主体としたグローバル経済が拡大することで、 一部の者たちに富が集中する一方で、圧倒的多数の人々が貧困や飢えの犠牲になること。
そして世界にはお金も食料も十分にあり、 今の世界の人口が2倍になっても養えるだけの食糧が生産できているのに、 ゆがんだ経済システムや政治腐敗などのせいで食糧が公平に行き渡らない問題などが説明されています。
ジグレール氏が、本の最後の方で問題にしていたのは、市場原理主義の経済です。
1999年に書かれた本なので、この本が出たときにはまだサブプライムローンの問題も、 リーマンブラザーズの破たんやその後の金融危機も起こっていなかったわけですが、 極端な格差をもたらす経済の在り方には、危機感を持っていました。
本の中では、格差の例として次のような数字が紹介されています。
- 世界の金持ち225人の総資産は、1兆ドルを超えている
- これは貧しい国に住む25億人の1年間の総収入に匹敵する
- ビル・ゲイツの資産はアメリカ人の低中所得者1億1250万人の総資産と同じ
- 世界企業ランキング100社の売上高は、途上国120ヶ国すべての輸出総額より多い
このように、ごく一部の人間に富が集中する一方で、 1日1ドル以下で暮さねばならないような人たちが何億人もいて、 その中には飢えに苦しんでいる人たちもたくさんいる。 が、そうした人たちへの支援は、なかなか進みません。
とはいえ、貧困が発生する社会状況を根本から変えるのは難しいにしても、 当面の飢えの問題を解決するのに、そんなに多額のお金が必要なわけではありません。
2008年度のWFP(世界食糧計画)の食糧支援事業を行うのに必要なお金は、50億ドルだそうです。 が、ここの2008年7月のニュースレターを読むと、まだ20億ドルしか集まっていないとありました。
一方で、2008年9月に破たんしたアメリカの住宅金融公社2社に対しては、 2000億ドルもの資本注入が行われました。保険会社のAIGにも850億ドルの緊融資を米国は決めました。
こういうことには多額のお金を使っても、"わずか"数十億ドルのお金が出せないなんて。
自民党政権時代に麻生総理は2兆円を定額給付金で国民にばらまきました。
一方でWFPの予算は、1ドル100円で計算したとしても5000億円程度。
日本国民がもし、もらったお金を全部WFPに寄付したら、4年分の予算がまかなえたことになります。
[関連情報] FAOプレスリリース
飢餓・貧困問題がよくわかる本「世界の半分が飢えるのはなぜ」
子供向けに作られた本なので、非常に読みやすいしわかりやすく作られた本ですが、 語られている内容は多岐にわたります。
ドイツ語からの翻訳本だということですが、翻訳が非常に適切で、 翻訳本とは思えないような自然な日本語に訳されています。
脚注も親切に付けられているので、 言葉の使い方や文化的背景の違う日本人の読者が読んでも理解しやすい本になっています。
1999年に書かれた本の翻訳なので、若干内容的に古い部分もありますが、 ほとんどは今でも通用する内容、この手の本の中ではもっとも優れた本のひとつといえると思います。
世界の半分が飢えるのはなぜ? の詳細へ
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